小津安二郎 監督
笠智衆、佐野周二、津田晴彦
小津は何故、自らの戦争体験は描かず、
生涯得ることのなかった家族の図を探求したのか。
その体験がなかったからこそ、この完璧な父親が造られたのだろうか。
正しく、慎ましく、愛情に溢れた、理想の昭和の父親像。
対する、これまた従順で、誠実で、父親想いの理想の息子。
坊主頭に象徴される戦争の影。
手塩にかけて育てた息子が戦争にとられてしまうという知らせにも
いつもの様に淡々と、でも愛情を込めて応える父親。
時代だなぁと思ってみたり。
お互いのことを想うからこそ一緒に暮らすこともできない家族がいる。
例えば、それが簡単に叶う家族だってたくさんいるわけで。
「父さんと一緒に過ごした十日間が人生で一番仕合わせだった」と呟く息子。
「私は仕合わせなだった」と語る父親。
一緒にいたからこそ得られた仕合わせと、
一緒にいなかったからこそ叶った成功、両方がある。
現代の日本社会は、得られるものだけに囚われすぎてきた。
この価値観をもっと主張できる世の中でもいいと思う。
http://book.asahi.com/review/TKY201104050139.html